今回は、前半が映画『パルプ・フィクション』について、後半が『クリエイションにおけるプレゼンテーション』についてという構成で講義が行われました。
これまでの講義の中でクリエイションにおける最も重要な概念のひとつとして繰り返し提示されてきた、『クリエイションは換骨奪胎である』という概念。
これをより深く理解し、名作を名作として受け取る感性を身につけるために、なぜその作品が評価されているのかということについて考えることが必要です。
そこで、テーマとなった映画『パルプ・フィクション』における名作としての構造を、岩崎氏が挙げるものの他、受講生が読みとったものを発表しそれに対して岩崎氏が見解を述べるという形式で前半の講義が進行しました。
候補として挙げられたものは下記の通り。
・アーリーアダプターとしてのパルプ・フィクション(H)
・会話の魅力(S)
・時系列をシャッフルした編集(S)
・上下関係のめまぐるしい入れ替わり(S)
・場違い感のある会話(S)
・SEXが大きな軸(H)
(H)…ハックル氏
(S)…受講生
アーリーアダプターとしてのパルプ・フィクション(H)
まずは岩崎氏から、この映画の特徴として、出演者のギャラが非常に少なかったということが提示されました。
これにどんな意味があるかというと、まだ無名だったり、人気が低迷している俳優・女優が出演し、好演の結果映画が話題となり、あるものは出世作、あるものは再ブレイクを果たす作品となったため、出演者に対するアーリーアダプター性を持っているということでした。
その俳優・女優を語るときに、必ずこの映画が語られることとなり、そのことがこの映画の名作として評価を高めていくことになるとのことでした。
会話の魅力(S)
次に、受講生から映画の中で交わされる会話が魅力的である、ということが提示されました。
岩崎氏はこれに同意し、これが『バディもの』と呼ばれる物語形式であるとしました。
『バディもの』とは岩崎氏の著書である『小説の読み方の教科書』のなかで、ドン・キホーテの昔から脈々と受け継がれてきた手法であることが解説されています。
また、これまでの講義のなかでも『バディもの』の魅力は『会話』にあると言及されてきましたが、さらに踏み込んで『会話は価値観の擦り合わせ』であるということが提示されました。
また、これまでの講義のなかでも『バディもの』の魅力は『会話』にあると言及されてきましたが、さらに踏み込んで『会話は価値観の擦り合わせ』であるということが提示されました。
この映画では、登場人物が幾つかの組み合わせでバディを形成し、その会話ーーまたはそれにともなう行動ーーのなかでそれぞれの価値観を明らかにし、人物像に立体感と共感を生んでいます。
岩崎氏のブロマガでは、中でもブルース・ウィリス演じる白人ボクサーのブッチ・クリッジに焦点を当て、このキャラクターの存在こそが映画『パルプ・フィクション』を不朽の名作として押し上げる要因となったということが解説されています。
週末に見たい映画#007「パルプ・フィクション」(2,454字) ※有料コンテンツですすhttp://ch.nicovideo.jp/huckleberry/blomaga/ar80126
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特に後者のブロマガでは、ブッチの行動がこの映画の持つ深遠な哲学を読み取るヒントとなると述べられています。
"なぜ自分を殺そうとしたマフィアのボスを助けたのか?〔中略〕しかし結果的に、ブッチのこの行動が、他ならぬブッチ自身を助けることになる。ここのメッセージを読み取ろうとするとき、この映画の放つ深遠なテーマというものに気づかされ、唖然とさせられたのだった。"
ブロマガにはこの『深遠なテーマ』について詳しい記述はありませんが、講義ではブッチが持つ『ある信念』に基づく会話と行動について言及があり、おそらくそれが『深遠なテーマ』に繋がる、またはそのものなのではと想像しました。
ブッチは恋人であるファビアンとの会話の中で、ブッチ自身が持つ価値観ーー『ある信念』ーーを擦り合わせ、それに基づく行動を起こし、物語が大きく展開します。
そしてマフィアのボスであるマーセルスとバディーー敵対する二人ですが、その関係性のうちにストーリーが展開するという意味でバディとみなしますーーを演じますが、その中でもブッチは『ある信念』に基づき、マーセルスを助けます。
このとき、観客は無意識のうちにこれまでの会話の中でブッチの持つ価値観を刷り込まれているので、その行動を自然で『彼らしい』ととらえ、共感するのです。
また、ブッチに助けられたマーセルスはブッチの裏切りを赦しますが、この『赦し』というのはキリスト教的テーマとして重要な意味を持つということでした。
後述するエピソードの中でも、会話が物語に重大な影響を与え、映画を魅力的にしているケースをみていきます。
時系列をシャッフルした編集(S)
続いて別の受講生から、時系列がシャッフルされた編集に価値があるのでは、という提案がありましたが、岩崎氏の見解ではこれは表層的なもので、そんなに価値はないということでした。
僕もこのことについて発表しようと考えていたので残念でした。
上下関係のめまぐるしい入れ替わり(S)
さらに、別の受講生から、
人物の上下関係が目まぐるしく入れ替わることが魅力的という発表がありました。
これについて岩崎氏は賛意を示し、この世界の本質は混沌であり、人間の役割はそこに秩序(バランス)をもたらすことであるが、価値観の擦り合わせが行われるときにバランスを崩し、訪れるカタストロフィみたいなものに人は無意識に惹かれるという説明がありました。
その絶妙な組み合わせ、ものごとの均衡と破綻、計算と非計算が表裏一体となったまだら模様を描くその様が、この映画の魅力となっているということでした。
また、クリエイションにおいては、ギリギリまでコントロールした上で生まれる破綻が大きな価値を持つことが多くあるそうで、映画史に残る即興ーーインプロ(英語:improvisation)として、いくつかの映画から、そのワンシーンが例に挙げられました。
場違い感のある会話(S)
次に別の受講生から、緊張感のあるシーンとちぐはぐな会話が魅力的であるという発表がありました。
しかし、岩崎氏の見解では、むしろ自然であるように細心の注意を払っているために、非常に魅力的になっているということでした。
特にマフィアのボスを裏切った白人たちを始末するため、ジュールスとビンセントが目的の部屋に着いたとき、時間が早いからと階段ホールに移動してそれまでの話しの続きをするシーンがいいと評価されていました。
さらにその次のシーンで、ジュールスに問い詰められる白人が、What?(えっ?)を連発することで肩を撃たれますが、会話の中で無意識のうちに相手に与えるメッセージ・無意識に受け取る影響があるということを、タランティーノ監督がよく理解していることが分かり、観客には無意識の共感という形で伝わるという解説がありました。
SEXが大きな軸(H)
最後に岩崎氏から、この映画の大きな軸となっているのが『SEX』である、ということが提示されました。
ジュールスとビンセントの間で交わされる、『フットマッサージはアウト(≒SEX)か』という会話、白人を問い詰めるジュールスの『Does he look like a bitch?』という発言、そしてミアの相手をするビンセントの葛藤。
このように会話の中でボスのマーセルスが不可侵領域である、という価値の擦り合わせ(前フリ)が行われてきたにも関わらず、オカマにおカマを掘られるというオチ(カタストロフィ)が発生。
マーセルスがブッチに八百屋を持ちかける席で放った、『Fuck pride!(プライドがなんだ)』というセリフが頭の中を駆け巡ります。
まとめ
前回の講義の中で、評価の高いコンテンツは二層のレイヤーを持つというお話しがありました。
それに映画『パルプ・フィクション』を当てはめて考えると、表層の『単純明快な「おはなし」』は、一風変わった編集のお洒落な音楽のマフィア映画ですが、深層の『深遠な哲学』を追究していく過程で、ほとんどの人が無意識のうちに受け取っている『価値』を日の目にさらすことができます。
魅力的な会話による前フリ、均衡と破綻を繰り返しながら転がるように進む物語、全ての価値観を覆すカタストロフィ、そして信念を持って行われる救済、からの赦し。
登場人物と物語が立体感を持ち、たった1時間の講義の中で、この映画に対する意識が大きく変わり、何倍も面白く感じるようになりました。
今回は受講生の方々の発表も取り入れながらの講義となりましたが、記憶とメモを頼りに書いていますので、誤解している部分がありましたらご指摘ください。
クリエイションにおけるプレゼンテーション
後半は、前半と同じくらいの濃い内容で『クリエイションにおけるプレゼンテーション』について講義が行われました。
ここで言う『プレゼンテーション』とは、いわゆる企画発表という狭義としてのものではなく、クリエイターとしてどのように振る舞うのか、という意味で、これまでの講義のなかでも折にふれて言及されてきました。
これは岩崎氏の持つ知見のなかでも最も重要なもののひとつであると感じ、この場で詳らかにすることは気が引けますので、ここではトピックの列挙のみに留めさせていただきます。
今後、岩崎氏の同意がいただければ、別の形でまとめた記事を作成しようと思います。
- 作品以外の部分でいかにして戦うか
- 言葉への執念
- 相手の意に沿うプレゼンテーション
- コンテンツはキャッチボール
- サプライズを演出する
- 下僕キャラ
- ハックから読み取る信念の在り方
- 無意識の部分を知る
終わりに
今回もかなり濃い内容で、あっという間の2時間半でした。
懇親会は二回に一回というのが定着しつつあるのですが、帰りがけに別の受講生の方と、ハックル先生抜きでも受講生だけで飲むのも悪くないのではという話が出ましたので、もし参加したい方がいらっしゃいましたら、僕(錦織)かK上さんにお声がけください!
次回は9月20日の開催、テーマは映画『フォレスト・ガンプ』です。
フォレスト・ガンプに関連するブロマガ
週末に見たい映画#43「年末年始に見たい映画5位から1位」(2,807字)
※有料コンテンツです
http://ch.nicovideo.jp/huckleberry/blomaga/ar422132
※有料コンテンツです
http://ch.nicovideo.jp/huckleberry/blomaga/ar422132
岩崎夏海クリエイター塾レポート・リンク集
http://blogger.naminoritaishi.com/p/huckleberry.html
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